FIFAワールドカップ 思い出のBest Bout ⑥ ~日本代表編~

FIFAワールドカップ サッカー
数々の名勝負を生んできたFIFAワールドカップ

ワールドカップの舞台

【5】後半 ~追いつくベルギー

65分、

後がないベルギーベンチが先に動く。

キレのない MFメルテンス に代えて長身の MFフェライニ、

左サイドの WBカラスコ に代えて MFシャドリ を投入。

前線の高さとサイドからの攻撃を活性化させる狙いだ。

交代して早々、効果が出始める。

日本DF陣がゴール前に上がった MFフェライニ に気を取られて出来たスペースに、

WBムニエ が入り込みシュートを放つ。

それでも落ち着いてボールを回す日本だったが、

67分、中盤付近で MF長谷部 がサイドチェンジで蹴ったボールが

味方の MF香川 に当たってしまい、

結果ボールはタッチラインを割り 相手のスローインとなる。

一見何という事のない 単純なミスにも見えたが、

どこか落ち着きがなく、地に足がついていないような印象を抱かせた。

ベルギーは このスローインから右サイドに展開し、

グラウンダーのクロスに FWルカク が合わせる。

これは DF吉田 のブロックに阻まれるも、

次はコーナーキックのピンチ。

ファーサイドでベルギーDFが合わせたボールは中途半端な位置に浮き上がり、

GK川島 がハイボール処理しようと前に出るが

上手く弾くことが出来ない。

再びディフレクトしたボールが宙に浮いた状態で左サイドへ。

直前のプレーで前に出ていた GK川島 は、目線を左右に振られる形になり、

ベルトンゲンの 折り返しともループシュートともつかないヘディングに対応できず、

遂に失点を許す。(1-2、69分)


勢いに乗るベルギーは、

交代で入った MFシャドリ を左ウィング気味に張らせ、

MFフェライニ も攻撃時にはどんどん前線に上がっていく。

MFアザール と MFデ・ブライネ は中盤から前線への供給役に回る。

日本はまだ1点リードしている状態で、

焦る必要はないはずなのだが、

相手の攻撃に気圧されてどうしても重心が後ろになっていく。

そんな矢先の74分、

ベルギーの左コーナーキックの崩れで、

再び左サイドで MFアザール にボールが渡る。

カットインする体制からクルっとターンして対峙した FW大迫 をかわすと、

左足で美しい軌道の緩やかなクロス。

コーナーキックの流れで攻め残っていた選手の中で、

絶好のポジションにいた MFフェライニ が頭で合わせる。

マークに付いた MF長谷部 をなぎ倒しての

豪快な同点ゴールだった。(2-2)


【6】ロストフの14秒

一度傾いた流れはなかなか止められない。

徐々に中盤が空き始め オープンな展開になる中、

MFアザール のドリブルは鋭さを増し、

WBシャドリ も左サイドからのクロスで好機を演出。

前半大人しかった MFデ・ブライネ も

徐々に前目のポジションでプレーし始める。

81分、日本も交代のカードを切る。

MF柴崎 に代えて MF山口蛍、

右ウィングの 原口 に代えて MF本田 を投入。

MF山口 は MFデ・ブライネ を自由にさせないための起用であり、

MF本田 はフィジカルを活かしてのキープ力と、

セットプレーでのキッカーとしての役割を期待しての起用。

交代してすぐ、本田 は右サイドでの敵を背負う形でのキープから、

相性の良い MF香川 との連携でベルギーDFを崩しにかかる。

83分には左サイドでボールをキープした MF香川 から

ゴール前に走り込んだ 本田 へ絶妙なスルーパス。

これはDFに当たり得点とはならなかったが、

ずっとペースを掴めずにいた日本が

少し息を吹き返すきっかけとなる場面だった。

一進一退の攻防が繰り広げられる中、

後半のアディショナル・タイム、

日本は絶好の位置で直接FKのチャンスを得る。

ゴール正面やや遠い位置からのFK。

キッカーはもちろん MF本田。

距離は少しあるが、本田 のパンチ力なら十分狙える位置。

2010年大会のデンマーク戦の再現なるかと

皆が固唾を呑むなか蹴り出されたボールは、

無回転のままゴール左の枠を捉えたが、

2メートルの身長を誇る名ゴールキーパー、

クルトワ に弾かれる。

続けて左コーナーキックのチャンス。

時間的に後半のラストプレーになる場面。

この日の日本はショートコーナーを多用していたため、

この場面でも使ってくるのではと頭をよぎる。

カウンターを警戒してコーナー付近で時間を稼ぎ、

そのまま延長に突入するという選択もあった。

しかし、この時の 本田 はセンタリングを選択。

グループリーグ初戦で 同じく左コーナーから

FW大迫 の決勝弾をアシストしたイメージも残っていたかもしれない。

左足で蹴られたボールは直接 GKクルトワ にキャッチされる。

ここで試合終了かとも思われたが、まだ笛は鳴らない。

しかしベルギーの選手達には、

この先十数秒の展開が見えていたのかもしれない。

そう、少なくとも クルトワ と デ・ブライネ には・・・。


GKクルトワ がキャッチした瞬間、

猛然と走り出す MFデ・ブライネ。

GKのクルトワ は素早く彼の足元にボールを送り出す。

デ・ブライネ のこの日一番のスプリントに

周りにいた日本の選手たちは一瞬で距離を離されてしまう。

一気にハーフライン付近までボールを運び、

カウンター対策要員として自陣に残っていた MF山口 が

間合いを詰めようとした瞬間、

右サイドを並走していた WBムニエ に絶妙なパス。

WBムニエ がグラウンダーでセンタリングを上げると、

ゴール前に詰めていたのは 巨漢 FWルカク。

誰もが右足でシュートすると思った矢先、

ルカクはスルーを選択。

同じく逆サイドを並走していた MFシャドリ にボールは渡り、

シャドリ それを難なく決め、

ベルギーは遂に逆転を果たした。(3-2)

後に『 ロストフの14秒 』と呼ばれる

完璧なロング・カウンターだった。


【7】歴史を積み重ねるということ

本田の勝ち越そうという思いは叶わなかった。

懸命に自陣前まで戻った 昌子 の足は届かなかった。

失点の瞬間 選手たちは空を仰いだ。

監督 西野朗 は呆然とするしかなかった。

その光景は、まさに二十数年前に

ドーハの地で見た『 悲劇 』そのものだった。

いくつもの ‶ もしも ” はあった。

2-0ではなく1-0の緊張感のあるスコアのままで

終盤まで戦えていたら・・・。

本田 が直接センタリングではなく、

ショートコーナーを選択していたら・・・。

1枚残したままだった選手交代のカードを

使い切っていたら・・・。

失点前に 長谷部 が蹴ったボールが香川に当たらず、

日本がベルギーにペースを譲らなければ・・・。

スポーツに足らればは付きものだ。

しかし、この残酷な結果こそがサッカーであり、

この悔しい敗戦こそが、チームを更に強くさせるきっかけとなるものだ。

実際、『 ドーハの悲劇 』を経験した日本は、

その4年後『 ジョホールバルの歓喜 』で念願のワールドカップ初出場を果たし、

以降2022年のカタール大会まで

7大会連続で本大会出場を果たしている。

そして、何よりも重要なことは、

今回 初めて本当の意味での ‶ 名勝負 ” を、

ワールドカップの、しかも決勝トーナメントの舞台で演じたことだ。

2点先制してからの逆転負けは、

『 悲劇 』と呼ぶに相応しい。

しかし、こういった歴史を積み上げることで、

更に上を目指そうとする次の世代に その経験を活かすことが出来る。

『 ドーハの悲劇 』では試合終盤の時間の使い方の重要性を学んだ。

それは今大会の3戦目、ポーランド戦で活かされた。

今回は自力で圧倒的に劣る相手に2点先制して逆転された。

それなら、その体験を今後に活かせば良いのだ。

ベルギーとの対戦は、2002年以来2度目だ。

これで日本は本選での対戦成績1分け1敗となった。

ワールドカップ本選で複数回対戦したチームは

他にコロンビア(1勝1敗)、

クロアチア(1分け1敗、カタール大会開幕前の時点で )がある。

本大会で勝敗を重ね、韓国やイランのようなアジアの枠に捕らわれず、

今後、世界全体に因縁の相手を作り続けていけばいいのだ。

そういった意味で この『 ロストフの悲劇 』こそが、

日本が遂にアジアの枠を初めて飛び出し、

ワールドカップの舞台で ‶ 名勝負 ” の歴史を刻み始めた、

歴史的な試合であると 私は思うのだ。

今後も更に こういった

‶ 因縁の相手 ” がどんどん生み出されることを

願ってやまない。


追記:

2022年 冬、

初めて中東で行われたワールドカップカタール大会で、

日本は初めて2大会連続の決勝トーナメント進出を決めた。

しかし、決勝トーナメント初戦でクロアチアに敗れ、

念願だったベスト8進出は今回も成らなかった。

今大会 戦った4試合で、

また新たにコスタリカとクロアチアが

因縁の相手に加わったことを嬉しく思うとともに、

ドイツ、スペインにとって、

日本が因縁の相手になれた事を

誇りを持って喜べることに、

いちサッカーファンとして 幸せを感じざるを得ない。

~ 終わり ~

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