至高のファンタジスタ 最後の輝き
2023年 12月17日、
ニッパツ三ツ沢球技場は
約1万5千人の笑顔に包まれた。
SHUNSUKE NAKAMURA FEREWELL MATCH と題して行われた
YOKOHAMA FC FRIENDS 対 J-DREAMS の一戦。
永くに渡り日本代表の10番として活躍した
中村俊輔の引退試合だ。
天才レフティ、世界屈指のフリーキッカー、
永遠の10番、日本最高のファンタジスタ。
彼を形容する言葉は数あれど、
案外これが一番しっくりくるのかもしれない。
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日本一のサッカー小僧。
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集まったメンバーは錚々たるもので、
特に小野伸二に代表される黄金世代を中心に、
日本を代表する名プレイヤーたちが一堂に会した。
( イタリア・セリエAなどで活躍した、中田英寿氏もゲストとして参加。プレーは披露せず。)
もちろん 稀代のタレントの最後の姿に
涙する観客もいたが、
試合中 場内は 終始笑い声や笑顔に包まれていた。
そして 我々ファン、サポーターだけでなく、
集まった選手や監督、あるいはレフェリーに至るまで全ての人が
俊輔の 未だ衰えない
類稀なプレーヴィジョン、
広い視野、
日本中を魅了した その高い技術に酔いしれた1日となった。
レジェンドたちの夢の競演 と 忖度だらけの前半
前半、俊輔は YOKOHAMA FC FRIENDS ( 以下 Y-フレンズ )で出場。
キックオフと共に
味方から受けたボールを丁寧に扱いながら
繋いでいく彼の姿は、
永かった現役生活で常に追い続けたボールに
そっと別れを告げているかのようだ。
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前半のピッチを盛り上げたのは、
俊輔とも親交の深い
元横浜F・マリノスのレジェンド3人だ。
序盤、 Y-フレンズ の先発FW城彰二が、
引退後 二回りほど大きくなった巨体を揺らしながら
ペナルティーエリア近くで仕掛けると、
お約束通りのファウルをもらい
俊輔のフリーキックでの1点目をお膳立てする。
流石のエンターテイナーぶりだ。
J-DREAMS ( 以下 J-ドリームス )DF中澤は、
果敢なオーバーラップと
特に右サイドバックに入ったDF加地に対する
やや理不尽なコーチングで場内を盛り上げる。
前半、ピッチ上の全員が
今日の主役にゴールを挙げさせようと
俊輔にボールを集める中、
再三に渡りシュートブロックを繰り出し
サポーターからブーイングを浴びていた。
俊輔が師匠と仰ぐJ-ドリームス GK川口は、
前半終了間際に相手ゴール前まで攻め上がると、
MF中村憲剛からの左コーナーを、
1回目は相手GKに防がれるも
2回目を見事にヘディングで決め、
ゴールキーパーながら
J-ドリームス 前半唯一の得点を奪った。
前半の MVP は もちろん 俊輔だ。
柔らかいボールタッチ、
糸を引くような美しいサイドチェンジなど、
要所で観客を唸らせる妙技を披露。
取っては 得意のフリーキックから2点、
カットインから右足で1点と、
引退して1年経つとは思えない
見事な運動量と体のキレを見せた。
1点目のフリーキックは多分にレフェリーの忖度を感じさせるものだったが、
( J-ドリームス GK川口が弾いたボールは
明らかにゴールラインを割っていなかったように見えた。)
特に ゴール左ペナルティエリア内でボールを受けてからカットインし、
ダブルタッチで相手を交わしてからの右足での2点目と、
壁の上から縦に落とす得意の弾道で
完璧なコースを突いた3点目のフリーキックは、
現役時代の彼のイメージそのものと言える
美しいゴールだった。
他にも J-ドリームスの先発で出場した
MF小笠原や MF本山の鹿島勢は
体も絞れていて 随所に巧さを発揮していたし、
途中から入ったFW大黒のラインぎりぎりでの飛び出しなどは、
現役時代を思わせる らしさ溢れるプレーだった。
家本レフェリーの忖度まみれのジャッジも、
この日ばかりは 観衆を盛り上げるのに一役買っていた。
サッカー小僧 最後の45分 ( 後半 )
後半、俊輔は J-ドリームスでプレー。
前半とは打って変わり、
日本代表で共闘したメンバーたちと
同じチームとしてピッチに立った。
夢の共演に、観客の期待も膨らむ。
一方、Y-フレンズは後半の頭から MF松井大輔を投入し、
左のウィングに配置。
松井も俊輔とは縁の深い選手だ。
観客を楽しませるという点においても
共通する部分が多々あると 個人的には思っている。
試合は、後半開始早々の4分に俊輔がゴール前の混戦から
左足を振り抜いてこの日4点目。( Y-フレンズで3点。J-ドリームスで1点。)
7分にはFW 高原とのワンツーから抜け出した
MF福西が決めて
J-ドリームスが遂に追いついた。( 3-3 )
白熱する試合展開と共に
もう一つ、局地戦でも白熱する場面があった。
後半からサイドでマッチアップすることになった、
Y-フレンズ 左ウィングの松井と
J-ドリームスの右サイドバック 駒野の対決だ。
同級生であり、オリンピック、A代表で
共闘してきた二人の熱を帯びた デュエルは、
少々演出めいた部分もあったが
十分見応えのあるものだった。
後半から入ったJ-ドリームスのDF坪井も印象的だった。
引退して数年経つにも関わらず、
持ち味であるスピード豊かなディフェンスは健在で、
何度か訪れたY-フレンズの決定機も
体を張ったブロックで防ぎ 存在感を示した。
同じく後半入ったDF闘莉王も
体は重そうだったが、
声のパフォーマンスで盛り上げた。
俊輔がボールを奪われて ボールを追わずにいた際、
「 シュンスケェ~~!!戻れぇ~~!!!」と
先輩である俊輔に声を張り上げる様に、
会場でも笑いが起きていた。
途中から右サイドバックに入った、
ウッチー こと DF内田篤人も
膝に痛々しいサポーターを付けながら、
右サイドで懸命にアップダウンを繰り返していた。
後半23分、俊輔のフリーキックの際には、
プレー中にも関わらず
俊輔が蹴る後ろ姿を スマホで撮影するなど
観客の笑いを誘った。
そして 何と言っても、後半途中から入った
J-フレンズ MF小野伸二だ。
先日、今シーズン限りでの引退を発表した小野。
日本を代表する二人の天才の共演は、
この日訪れた観客 誰もが待ち望んだ瞬間だ。
お互いにリスペクトする間柄。
オリンピックやA代表で共にプレーすることはあったが、
もっと違った形で二人が共存する世界を夢見た人も
大勢いたことだろう。
シドニーオリンピック予選や、
2004年 ジーコジャパン時代のイングランド代表との親善試合で
抜群のコンビプレーを見せた時のように。
双方のケガや監督の起用法などで、
当初期待していたような二人ならではの化学反応が
それほど多く見られなかったことは、
日本サッカー界にとって 本当に残念な事だが、
それもまた フットボールか・・・。
この日、同時に投入された、
鉄人にして二人の盟友の 「 ヤット 」 ことMF遠藤保仁 と
3人で奏でる豪華な中盤は、
短時間ではあったが、やはり個々のクオリティーの高さと
プレーヴィジョンの豊富さを感じさせるもので、
いつまででも見ていたいと思わせる
何とも贅沢な時間だった。
( J-フレンズの5得点目、
DF三都主 の追加点の起点となった、
FW柳沢に出した 右アウトサイドの縦パスなどは、
まさに 小野伸二らしい遊び心に溢れたものだった。)
試合は、俊輔の後半だけでのハットトリックもあり、
( フリーキックで1点、流れの中から2点 )
J-ドリームス が Y-フレンズ に6-3で快勝。
俊輔はこの日、Y-フレンズで3点、J-ドリームスで3点 、
合計6得点の大活躍で
自身の引退試合に花を添えた。
試合自体は 終始和気あいあいとしたムードだったが、
そんな中でも、J-ドリームスの選手たちの技術の高さや、
プライドから来る局面局面での
真剣勝負の場面が垣間見れて、
本当に充実した 楽しい90分間だった。
少し気になったのは、
今回引き立て役となった 横浜FCの現役メンバーが中心の
YOKOHAMA FC FRIENDS が、
後半 俊輔、松井が抜けてから攻撃が停滞し、
いくつかあった決定機にも得点出来なかったことだ。
いくら元代表戦士揃いとは言っても、
相手はほとんどが現役を退いた選手ばかり。
オフシーズン中とは言え、
後半は 走れないJ-ドリームスをもう少し追い詰めるかと思っていたが、
クオリティの低さを露呈してしまったように感じた。
来年はJ2での厳しい闘いが続く。
引退試合だからと言って空気を読まずに、
負けず嫌いが表に出てくる選手が
一人や二人くらい いた方が、
俊輔も安心するのではないかと、
少し心配になってしまった。
サッカー人 俊輔の 照れと気遣い ( 試合後セレモニー )
試合後のセレモニーにも、
サッカー人 中村俊輔の 人となりが現れていたように思う。
自身の引退試合にも関わらず、
口にしたのは 周りのスタッフやサポーター、
今日集まってくれた選手たち、家族、
これまでに在籍してきたチーム関係者たちへの
感謝の言葉ばかりだった。
重苦しくならず、淡々とした口調で、
それでいて真摯にサッカー愛を語る俊輔の姿は、
彼が今まで過ごしてきた
サッカー人生そのもののように思えた。
会場の雰囲気を 決して湿っぽくしたくないという配慮は、
彼特有の照れ隠しのように感じる。
そして、周りの環境に感謝しつつも、
もっと上手くなりたい、成長したい という
常に前向きで貪欲な姿勢もまた
彼を支えてきたものだ。
すでに 横浜FCのコーチとして
一年間過ごしてきた彼とって、
チームがJ2に降格した今シーズンの結果には、
当然 悔しい部分もあるだろう。
すでに 指導者として歩み出している彼にとっては、
今回の引退試合も
あくまで通過点の一つに過ぎないのかもしれない。
常に前を向き、より上を目指す姿勢こそが
中村俊輔なのだから・・・。
~ END ~
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