星空の下で寝る
無邪気なヨンちゃんは、その後も
「 デザートフォックスの鳴き声が聞こえた。」と言っては、
何度か私をキャンプの外へ連れ出した。
すると、なぜか 休憩小屋にいたラシードも
その都度顔を出して、
「 どうしたの?」とか、
「 ここにはいないよ。」
などと、声をかけてくる。
【 これはいよいよ チャンスを窺っているな 】と、
私は彼女が外へ出て行く度に、
彼女のボディーガードよろしく
同行せざるを得なかった。
最後には さすがのラシードも呆れ果て、
我々を置いて休憩小屋の方へ戻って行って
姿を見せなくなった。
・・・・・・・・・・・・・・・
残されたヨンちゃんと私の二人、
いるとも思えないデザートフォックスを探しながら
夜の砂漠を彷徨っていると、
ふと 疑問が湧いてきた。
「 この夜中に いったい私は何をしているのだろうか?」
これまでのことは ただの思い過ごしか、
全くの徒労だったのかもしれない。
それでも やはり、
このうら若き乙女を、異国の地の果て、砂漠の真ん中で
放っておくわけにはいかなかった。
飢えたオオカミが、喉を鳴らしながら
夜通し獲物を狩るチャンスを窺っているのだから・・・。
それに、彼女と二人で過ごす砂漠の夜は、
なかなかロマンチックと言えなくもなかった。
私があと一回りくらい若ければなどとも思うのだが、
そんなことは想像したところで仕方がない。
何となくヒロイックな気分になれただけでも
良しとすべきだろう。
ようやく落ち着いたところで、
二人そろって 各々の敷かれたマットレスの床に就いた。
しばらくして ウトウトとしてくると、
ヨンちゃんは、
「 寒くなってきたから、やっぱりテントの中で寝るわ。」
と言い残し、
自分のテントに戻って行った。
星空を眺めながら寝ようと言い出したのは
彼女の方だったので、
何だか 一人取り残されたような気分になったが、
依然 月は綺麗に空に浮かんでいるし、
毛布もあるので さほど寒さを感じなかったこともあり、
私はこのまま ここで寝ることにした。
それに今いる寝床は、テントに囲まれたキャンプのほぼ中央付近だから、
仮りに、ラシードが変な気を起こして
ヨンちゃんのテントに迫ろうとしたとしても、
声や音で気付くだろうから
簡単には近付けないだろう。
私はまさに プロのボディーガードの心境だった。
夜の終わり ホテルへ帰る
だいぶ時間が経ち 目を覚ますと、
高い位置にあった月は
反対側の空の低い位置へ移っていた。
目覚めはしたが、
毛布をかぶったままの態勢で しばらく佇む。
この時間、他の者は 皆テントに籠っていて、
ここには 私以外の者は誰もいない。
( ラシードも結局テントの中で寝たようだ。
それでは、昨晩あんな時間まで休憩小屋にいたのは
いったい何だったのか?
やはり どうも釈然としない。)
街灯も窓明かりもない、
月明りだけの空間に 一人でいるというのは
なかなか乙なものだった。
次第に空が明るみ出して
皆が起き始めた。
7時過ぎには 身支度を整えて
皆で揃ってキャンプを後にした。
ラシードは、言葉にこそ出さないが
私に対してどこか不満げだった。
おそらく、自身の色恋に横槍を入れてきた、
( それが果たして 純粋に色恋と呼べるかは疑問だが、 )
私のことが 気に入らないのだろう。
だが 私からすれば、
「 そういうことは 私がいないところでやってくれ!」
と言いたいところだ。
出発して 少し行った丘の上で
朝日が昇るのを待つ。
太陽に照らされて、
砂漠の無数の起伏が 徐々に赤く染まってゆく景色は、
壮観だった。
写真を撮り終え
ラクダに乗って昨日来た道を帰る。
今度は休憩を挟むこともなく、
8時半には宿に到着した。
用意されていた朝食を済ませると
各々 部屋へと戻った。
ラシードと小アリとも
ラクダを降りたところで別れた。
彼らは ほぼ毎日あのキャンプに行くということだから、
また新しい客を連れて
今日もあの道を歩くのだろう。
そう考えれば、
ラシードには いくらでもチャンスが巡ってくるだろうから
( もちろん 強制的なのは良くないが・・・。)
今回くらい邪魔をしたところで
恨まれることもないだろう。
ラシードも、一応私に対しては
客とガイドという態度を崩さなかったから、
案外悪い奴ではなかったのかもしれない。
ただ、今回だけは相手が悪かった。
とりあえず、こうして 無事 私のサハラツアーは終了した。
1日の歩数:12658歩(9.7km)
1日の出費
食費
全てツアー費用込み
その他
交際費:450DH(サハラツアー)
合計 約¥4725
1DH=¥10.5 *当時のレート
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