イタリア、スコットランドでの日々
まだ現役の彼に対し失礼なことではあるが、
彼が近い将来引退した後にその全盛期を語る際、
多くの人が思い浮かべるのが
グラスゴー・セルティックでの4年間であろう。
特に2006-2007年の俊輔は
スコティッシュ・プレミアリーグの MVP を獲得しただけでなく、
UEFAチャンピオンズリーグにて、
当時 C・ロナウド、ルーニーなど多くのタレントを擁し、
世界選抜とも言われた 宿敵マンチェスターユナイテッド相手に、
ホーム、アウェイ戦と2度の直接FKを決め、
永遠にセルティックサポーターの記憶に残るレジェンドとなった。
セルティックでは1年目からレギュラーとして活躍していた俊輔だが、
失意のドイツワールドカップの後( 2年目以降 )
どういったキャリアを歩んでいくのか個人的に注目していた。
まだ28歳と老け込む歳でもないが、
イタリアよりレベルの落ちるリーグに移籍したのには、
どんなメリットがあるのか。
答えは強豪ひしめくチャンピオンズリーグで活躍し、
リーグでも圧倒的存在感を示すこと以外になかった。
俊輔はリーグ MVP とチャンピオンズリーグでの大躍進という
最高の形でその問いに答えた。
セルティックでのブレイクに先立って移籍した
イタリアでの3年間も無駄ではなかった。
1年目はそれなりのインパクトを残すも( 32試合出場、7得点 )
2年目はケガの影響もあり16試合の出場に留まり( 2得点 )
起用法に不安を抱えたままで3年目を迎えた俊輔は、
後の名将 ワルテル・マッツァーリ監督の下、再び輝きを取り戻す。
俊輔のテクニックとキッカーとしての能力に目を付けたマッツァーリは、
彼をトップ下、もしくは1トップを補佐するシャドーに据え、
縦に急がず中盤を経由して繋ぐという、
イタリアのプロビンチャ( 地方の中堅以下のクラブ )としては
異例とも言える戦術を用いた。
決して強力なフォワードがいたわけではないが、
前線でのキープから粘って繋いだボールでコーナーキックやフリーキックを獲得し、
俊輔の正確なキックでチャンスを作るというパターンが出来上がった。
ビッグクラブであるユベントスやローマを破るなどのサプライズを何度か起こし、
彼自身も充実したシーズンを過ごした。
そんな中 プレイ面でも大きな変化があった。
もともと運動量は少なくない選手であったが、
量だけでなく質( スプリントの回数やカバーリング )も伴ってきていた。
特に守備の意識の向上は見違えるほどで、
Jリーグ時代のように、攻撃に余力を残すために守備をさぼるという姿も影を潜めた。
いわば 期待の新人の ‶ 卵 ” であった俊輔を、
イタリアの厳しい環境が、大人のジョカトーレに ‶ 孵化 ” させたのだ。
3年目のシーズンを33試合出場2得点で終了した俊輔だったが、
数字以上に重要な役割を果たし、
この年レッジーナは 創設以来最高順位の10位でシーズンを終え、
後に俊輔はイタリアの地元紙が選ぶ、
レッジーナの歴代ベスト11にも選出された。
徐々に海外のフィジカルや間合いの違いにも慣れ、
満を持して移籍したセルティックでは、
俊輔の攻撃面でのクリエイティブな能力が花開いた。
ポジションはトップ下ではなく、
4-4-2の右の攻撃的MFではあったが、
リーグではほとんどの試合がポゼッションで相手を上回る展開だけに、
守備に忙殺されることも少なく、
俊輔の創造性やテクニックは冴えに冴えた。
厳しい守備や戦術のタスクから解放され
攻撃面でのクリエイティビティをより開花した選手として、
レベルこそ違えど、
ユベントスからレアル・マドリードに移籍して更に才能を爆発させ、
その時代を代表するMFから
歴代最高峰の選手へと変貌した
ジネディーヌ・ジダン を思い起こさせた。
俊輔のようなファンタジスタを
「 ケーキの上のイチゴのようなもの 」と例えることがある。
無くても食べられるには食べられるが、
あった方が見た目も華やかで 味も奥深くなる
といった意味かと思う。
セルティック時代の俊輔はまさにこの「 ケーキの上のイチゴ 」であり、
ゴードン・ストラカン監督がチームを作る上で欠かせない、
仕上げのための極上のスイーツであった。
・・・#6へ続く
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