120分の死闘
【3】若いイングランド と 老獪なクロアチア
2018年 ロシア大会 準決勝 クロアチア対イングランド
( 2018.7.12 )
首都モスクワのルジニキ・スタジアムで行われた運命の一戦。
クロアチアは1998年大会以来のベスト4。
勝てば初の決勝進出。
イングランドもベスト4は1990年イタリア大会以来。
近年優勝候補と目されながらも なかなか結果が伴わず、
やっとのことで辿り着いた準決勝。
大黒柱の FWケイン が得点を量産し攻撃を牽引する。
もう一人のFWにスピードが持ち味の FWスターリング、
2シャドーに新進気鋭の MFアリと MFリンガード を従え、
WBの左に ヤング、右に トリッピアー、
中盤の底が ヘンダーソン。
マグワイア、ストーンズ、ウォーカー の3バックに、
最後尾の GKピックフォード がクロアチア攻撃陣の前に立ち塞がる。
一方のクロアチアは、
前線中央に マンジュキッチ、
ウィングの左に ペリシッチ、右が レビッチ。
中盤は モドリッチ、ラキティッチ のスペイン勢を、
若手の ブロゾビッチ がサポート。
DFラインは ストゥリニッチ、ビダ、ロブレン、ブルサリコ の4バック。
最後尾は連日のPK戦で存在感を示す
GKスパシッチ がゴールに鍵をかける。
試合は序盤早々に動く。
開始5分、クロアチアのゴール前で MFモドリッチ が MFアリ を倒し、
イングランドがFKのチャンス。
セットプレーのスペシャリスト WBトリッピアー が右足を一閃。
クロアチアGKスパシッチ の牙城を崩し、
イングランドが念願の先制点を奪う。(0-1)
先制されてもクロアチアは動揺することなく、
MFモドリッチ、MFラキティッチ を中心に
落ち着いた試合運びを見せる。
イングランドの得意な速い攻撃を許さず、
一進一退の展開で前半を終える。
前半はほぼ互角。
クロアチアは、敵の エースFWケイン を DFロブレン、DFビダ が交互に見る形で
決定的な仕事をさせず、
イングランドの得点源のセットプレイも体を張って守り
追加点を許さなかった。
攻撃では MFモドリッチ、MFラキティッチ がゲームを作り、
時折り左から FWペリシッチ が持ち込んでシュートを放つなど、
反撃の機会を窺っていた。
後半に入ると、
徐々にクロアチアがペースを掴んでいく。
連戦にも関わらず、運動量の衰えない モドリッチ、マンジュキッチ のベテラン勢に引っ張られる形で、
チーム全体が一丸となって巨星イングランドを追い詰めていく。
同点ゴールが生まれたのは68分。
右サイドから SBブルサリコ のクロスに反応した FWペリシッチ が
ゴール前で DFウォーカー の前に入り込み、
高く上げた左足に上手く当ててイングランドゴールを破った。(1-1)
まるでテコンドーのようなアクロバティックな同点弾。
ハイキックの反則を取られてもおかしくなかったが、
笛は鳴らなかった。
ペリシッチ の抜群の身体能力が活きた得点だ。
イングランドも 交代で入った FWラッシュフォード がドリブルで崩そうと試みるも、
決定的な場面には至らない。
徐々にオープンな展開になると、
老獪なクロアチアは 上手く試合のペースを弛めたり、
時間を稼いでは、イングランドの得意な速い展開に持ち込ませない。
試合は高いテンションを保ちながらもスコアは動かず、
1-1のまま延長戦へともつれ込んだ。
クロアチアにとっては3試合連続の延長戦。
さすがに疲れも見え始める。
今大会フル稼働の モドリッチも らしからぬミスが増え始め、
足がつる選手も出てくる。
それでも大崩れはせず、
何とか耐え凌ぐクロアチア。
モドリッチ も気持ちの入ったプレーでチームを引っ張る。
このまま3試合連続のPK戦かと思われた延長後半の109分。
クロアチアの左サイド 交代出場の DFピヴァリッチ からのクロスがクリアされたところ。
飛距離の出ないクリアボールに反応した FWペリシッチが
イングランドDFトリッピアー にヘッドで競り勝ち、
バックヘッド気味にゴール前にすらしたボールは、
タイミング良く走り込んだ FWマンジュキッチ の足元へ。
左足でファーサイドを狙ったシュートは
イングランドGKピックフォード の反応虚しく
ゴールに吸い込まれた。(2-1)
延長前半 決定機に決めきれなかった FWマンジュキッチ。
それでも走り込む動きを止めなかった彼に対する、
サッカーの神様からのプレゼントボールのように見えた。
( 実際は ペリシッチ のアシストだが・・・)
イングランドもこのままでは終われない。
高さを活かしたパワープレーに持ち込みたい所だったが、
試合巧者のクロアチアはただ守るだけではなく、
時にパスを回し、
時にドリブルでカウンターの姿勢を見せるなど、
イングランドに攻め入る隙を与えない。
イングランドが最後の交代カードを切った後、
運悪く DFトリッピアー が負傷退場。
一人少なくなったイングランドは、
ロングボールに活路を見出そうとするが、
逆にカウンターから クラマリッチ に決定的な場面を許す。
疲れからマンジュキッチ、モドリッチ を下げたクロアチアを
最後まで攻略できず、
試合は2-1のまま終了。
クロアチアは3試合連続での延長戦を制し
初の決勝進出。
1966年大会以来の優勝を目論んだイングランドだったが、
老獪なクロアチアの前に準決勝で沈むこととなった。
【4】大会MVP
この試合でも抜群の存在感でチームを牽引したモドリッチ。
延長ではだいぶ疲れも見え 珍しくミスも散見されたが、
それが逆に彼のひたむきさ、チームへの献身性を引き立たせた。
そんな姿が、決勝進出の原動力となった彼を、
大会MVPに推す声が強くなった理由の一つだと
個人的には思っている。
日本人の心情的にも、
小柄だがチームのために身を粉にして走り回り、
味方を奮い立たせる彼の姿には、
どこか親近感を覚える。
それに加え 世界最高クラスのサッカーIQとテクニックを兼備しているのだから、
好感を持たざるを得ないだろう。
実際 クロアチアは、
次のフランスとの決勝で2-4と敗れ、
初のワールドカップ制覇とはならなかったが、
モドリッチ には記者投票により大会MVPを意味する
『 ゴールデンボール 』が与えられ、
この年の終わりには、
永らくメッシ、C・ロナウド の独占物となっていた、
バロンドールも初受賞。
名実ともに世界最高のミッドフィールダーとなった。
何度も死線を乗り越え、
満身創痍ながら力強くしたたかに勝ち上がり
大会を盛り上げたクロアチア。
もちろんチームの浮上の理由はモドリッチだけではなく、
マンジュキッチ、ラキティッチ、ペリシッチ と言った
優秀で気の利くタレントの存在も欠かせなかった。
しかし、我々を魅了したのは、
モドリッチ に引っ張られる形で全力でプレーする
クロアチアというチームそのものだ。
中でもその象徴たる モドリッチ は
チームの哲学、
さらには愛国心溢れる国民性をも体現していると思わせる存在で、
私にとって、
彼こそが『 クロアチアのクライフ 』そのものであった。
さて、我が日本においては、
今後『 日本のモドリッチ 』は現れてくるだろうか?
楽しく待ちたいところだ。
追記:
2022年ワールドカップ カタール大会。
またしても モドリッチ 率いるクロアチアが
ブラジルを降しベスト4入りを成し遂げた。
( ラウンド16では我が日本を降してのベスト4であるから、
多少複雑な心境ではあるが・・・)
惜しくも準決勝で メッシ 率いるアルゼンチンに敗れはしたが、
前回の準優勝がフロックではなかったことを
自らの力で証明した形となった。
もちろんチームの中心は37歳となった モドリッチ。
いくつになっても衰えの見えない、
本当に素晴らしい選手だ。
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