苦悩のファンタジスタ
展開としては 先制されて追いつき逆転、
最後にダメ押しと面白い試合だったが、
終わってみれば両チームの実力差は顕著だった。
終始日本が試合を支配していたと言っていいだろう。
それはスタッツでも明らかで
ボールポゼッションが
66:34 ( 日本:カザフスタン、以下同じ )
シュート
21:3
コーナーキック
7:1
と カザフスタンはセットプレーで1点取った以外は、
ほとんど攻め手が無かったと言って良い。
拮抗していたのは、後半25分の平瀬の同点ゴールの時まで。
その後引き分けでも通過の日本は
最後まで余裕をもった試合運びで、
あとの時間は満員で埋め尽くされた会場と全国のファン、サポーターへの
若き才能のお披露目会の様相を呈していた。
ただし、そんななかでも
オリンピックメンバー当落選上の選手にとってはアピールの場であり、
俊輔にとっても 窮屈な左サイドではなく、
トップ下や中央でもっとやれるということを証明する機会でもあった。
すでにイタリアで成功を得ていた中田だけは、
これぐらいと出来て当たり前という貫禄があった。
前年すでにワールドカップを経験していた彼からすると、
アジア予選レベルなら勝って当然という気持ちであったろうし、
他の若手も自分のところまで引き上げたいという
1段階上のモチベーションを持っていたように思う。
それは終了間際のFKの場面、
ヒデコールの起こる中で、俊輔にキッカーを譲った場面にも現れていた。
中田ヒデ、俊輔に
本山、高原ら黄金世代が加わり、( 間に合えば小野ももちろんだが、 )
オーストラリアの地でどんなサッカーを見せてくれるのかが
非常に楽しみになる内容であった。
その延長線上には、もちろん自国開催2002年のワールドカップで躍動する
フル代表の姿も見据えながら・・・。
この試合のMVPに選出された俊輔は、
試合後のインタビューでインタビュアーに目の潤みを指摘され、
珍しく声を詰まらせる場面があった。
「 サイドとか・・・。」 の次の言葉が続かず、しばしの沈黙の後、
この結果を最近亡くなった肉親に捧げると続けて インタビューを終えた。
もちろん肉親を亡くした悲しみは当人でしか知りえないことだが、
この「 サイドとか・・・。」という言葉には、
自分の得意なトップ下で使われない
若き天才の葛藤が 易々と想像出来た。
トルシエへの不満もあるが、
やはり、1段上のレベルにあり圧倒的な存在感を示す中田に、
今の時点ではまだ遠く及ばないという
自分自身への苛立ちもあったように思う。
高校時代やJリーグ加入後のインタビューでも 自己分析に優れ、
どちらかと言うとクールで 常に冷静なイメージだった俊輔が涙を見せたことに、
当時の私は虚を突かれ、いたく感動した覚えがある。
高校時代から名の知られた次世代の天才プレイヤーが
こんなに人間臭かったかと、
今で言うところの【 ギャップ萌え 】を感じてしまったのかもしれない。
いずれにしても、この試合以降
私の中で 中村俊輔というプレイヤーは、
ただの ‶ 才能ある若手注目株 ” から
‶ 日本の未来を背負って立つ最も期待する選手 ” という認識に変わった。
そんな ‶ 日本の愛される10番 ” が生まれた試合だった。
・・・#5へ続く
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