あの日のハリルジャパン Vol.3

ワールドカップ ハリルジャパン オーストラリア戦 サッカー
決戦を報じる当時の各メディア

激闘の果て

〈 会心の勝利 〉

日本の2点目が入ると、

オーストラリアも目の色を変えて反撃に出てきた。

全体にラインを押し上げ、

後半41分には、右サイドに流れた FWユリッチ のセンタリングを

逆サイドに詰めていた WBスミス がトラップしゴールに迫るも、

右SB酒井 が反応し コーナーキックに逃れる。

オーストラリアのコーナーキックは日本ディフェンスに撥ね返され、

タッチを割ったところで

CF大迫 に代えて FW岡崎 が入る。


日本代表で 三浦カズに続く歴代3位の得点数を誇る岡崎だが、

この場面で求められるのは、

得点ではなく 前線からの激しいプレスだ。

ここで、本田や香川など華のある選手ではなく、

泥臭くプレーする岡崎を投入する辺りも

ハリルホジッチらしかった。

そんな監督の意図を汲み取ったのか、

岡崎は 交代直後から激しいプレスを繰り返し、

オーストラリアに攻撃の糸口を与えない。

試合終了まで、彼は与えられた仕事を

完璧に遂行した。

パワープレーをしてこないオーストラリアに対して、

日本のイレブンは、チーム一丸となった献身的な守備と、

出足の鋭いカウンターを徹底。

WG浅野 に代わった FW久保裕也 も、

右サイドで起点となって時間を進める動き。

同じく途中出場の WG原口、FW岡崎 と共に、

前線の活性化に貢献していた。

疲れからか 徐々に動きの鈍くなったオーストラリアは、

最後まで日本の牙城を崩すことは出来ず、

アディショナルタイム3分を経て

試合終了のホイッスル。

日本が2-0でオーストラリアを下し、

見事 2018FIFAワールドカップ・ロシア大会

本選出場の切符を掴んだ。


面白いデータがある。

試合を通じてのスタッツで、日本のボール保持率は

何と33%。( オーストラリア 66% )

パスも日本305に対して

オーストラリアが627。

ほぼ倍の時間ボールを回され、

倍のパスを繋がれていたことになる。

しかし、シュート数においては

日本18に対し、オーストラリアがたったの5本。

枠内シュートが日本の5本に対しオーストラリア1本。

日本は効率よく攻め、シュートに繋げていたのに対し、

オーストラリアにはほぼ決定的なシュートを打たせなかったと言える。

今まで アジア予選で、

こういった戦い方で快勝した日本代表は

記憶になかった。

そう、まるで往年のイタリア代表のような、

鮮やかなカウンターサッカー。

確かに日本が本来やりたいサッカーではないのかもしれないが、

世界の強豪を相手にして、

常にやりたいサッカーが出来る訳ではないというのは、

前回のワールドカップで痛感したことである。

このオーストラリア戦での戦い方が、

日本がW杯本大会 初のベスト8以上を目指す上で、

一つの正解になるのではないかと感じた瞬間だった。

少なくとも 私にとっては・・・。

号泣の理由 ( わけ )

〈 ハリルジャパンのベストゲーム 〉

スタンドで観ている私にも変化があった。

なぜか涙が止まらなくなったのだ。

試合が終わり、

ワールドカップ出場が正式に決まってからではない。

実は そのだいぶ前、

井手口のゴールが決まった辺りから、

涙が自分の意思とは無関係に溢れ出して、

嗚咽が止まらなかった。

隣に座る友人に聞かれるのが恥ずかしいので、

何とか抑えようとしてはみたが、

明らかに様子がおかしかったので、

おそらく完全にバレバレだったことは容易に想像出来る。

今まで何度もスタジアムには足を運んでいたが、

こんなことは初めてだった。


そもそも、なぜ涙を流すほど感動しているのか

自分でもその時は分からずにいた。

普段から試合を観る時は、

どちらかと言うと俯瞰した立場で観る方だ。

席もゴール裏は迫力があるが、全体が見れないので、

メインスタンドかバックスタンドの席( ピッチを横から見れる席 )を取るようにしている。

昔、大好きだったレッズの外国人助っ人、

ポンテが退団する時の最後のセレモニーを見た際

少しウルっと来ることがあったが、

これほどに号泣した訳ではなかった。

もちろん困難な船出だった今予選を

無事突破したという嬉しさから

込み上げてきた涙というのもある。

人は嬉しいと、時として涙を流すものだ。

しかし、私が涙した大きな理由は、

チーム全員が For The Team に徹して一丸となり、

一つの目標に向かっていく姿に心を動かされたからだと

後々気付いた。

そして、何故か1年前にフランスで観戦した

EURO2016 Round16、イタリア × スペイン の試合を思い出していた。

あの時のコンテ率いるイタリア代表の、

一糸乱れぬ統率された戦い方を見て、

また、カウンターの際のイタリア選手の出足の鋭さに、

「 こういった戦い方をするチームを日本のJリーグで観られるのは、

まだまだ先の話だろうな・・・。」などと

勝手に自国のサッカーに対して高を括っていたのだ。

正直、ここ最近はJリーグを現地で観戦する機会すら

持たなかったのにだ。

最近のJリーグはよく分からないが、

少なくとも 今日の日本代表は、

あの1年前、スペインの無敵艦隊を撃沈したイタリア代表にも負けない、

献身的でソリッドな戦いが出来ていたという驚きと嬉しさが

私の感情を揺さぶったのだ。

そして、その感情は、

後半45分の場面でピークに達した。


それは MF井手口 が2点目を決めた後、

試合をこのまま締めようと、FW岡崎 を投入した辺りだ。

途中出場の WG原口、FW岡崎 は、

他の疲れたメンバーの分も走って守備をしようと

オーストラリアのディフェンスラインに

猛烈なプレッシャーをかけに行く。

原口が相手ディフェンダーに足を引っ掻けて転ぶと、

次の瞬間 岡崎はそのディフェンダーに覆いかぶさるように

すぐさま こぼれたボールに反応する。

ピッチに倒れる二人だったが、

休んでいる暇はない。

またすぐ立ち上がってチームの守備にほころびが出ないよう

プレッシャーをかけに行く。

ピッチ中央でまた岡崎が倒されながらも

相手のパスをカットして日本ボールへ。

こういった一連の動きが、泥臭くも美しく見えるのは、

彼らのサッカーに懸ける ‶ 気持ち ” が見えるからだ。

サッカーではエリートのはずの彼らが、

これだけ自分を犠牲にして、

執念でやっと勝ち取るのがワールドカップの出場権なのだと思うと、

何故か涙が止まらなくなったのだ。

そして、この戦う集団を、

ぜひ本大会で観てみたいと、

当然観れるものだと、

この時は思っていた。

試合が終わって、周りのサポーターが退場していく中、

私は呆然と席に座ったまま

先ほどまで繰り広げられていた死闘に

思いを馳せていた。

友人に促されて席を立つまでは・・・。

私史上、最も感動的なサッカー観戦は、

こうして終わった。


ハリルジャパンをどう評価するかは難しいところだ。

それを証明する機会は、永遠に失われてしまった。

ハリルホジッチ解任後、

西野体制で本選に挑んだ日本代表は

コロンビア、セネガル、ポーランドと同居するグループリーグを突破し、

一応のノルマは達成した。

しかし、どうしても想像せずにはいられない。

ハリルホジッチ率いる日本代表の戦士たちが、

世界の強豪を相手に次々と番狂わせを演じる姿を。

〈 終わり 〉

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