最後のファンタジスタ ~ ファン視点からの中村俊輔の記憶 ~

中村俊輔 引退 サッカー
引退する中村俊輔

中村俊輔との出会い

中村俊輔を始めて見たのは、

いつの事だったろうか?

確か、彼が桐光学園3年時に

冬の高校選手権に出場した時だったと記憶している。

すでにプロサッカーリーグとして

J リーグが開幕してから数年が経っており、

以前のようサッカーに触れられる機会が、

数年に一度のワールドカップや年末のトヨタカップ、

そして、年末年始に行われる高校サッカー選手権だけではなくなっていた時代だ。

若い世代には信じられないかもしれないが、

J リーグ発足以前、

日本サッカー界の一番の人気コンテンツは

冬の高校サッカー選手権であり、

国内最高峰の日本サッカーリーグ( JSL )はおろか、

日本代表戦であっても

その人気の足元にも及ばなかった。

おそらく 当時はサッカーを見る際に、

純粋な競技としての面白さよりも、

オラが町の学生が一生懸命頑張って

スポーツに打ち込む姿を観て感動を得ようとする、

他のバイアスが 今以上に働いていたのだろう。

そんな時代だった。

私自身、現役の競技者としての高校生活を終えていたことと、

ドーハの悲劇やアトランタ五輪、

Jリーグ開幕と共に海外のスーパースターが次々と来日し、

それに伴ったリーグ全体のレベルの向上など、

極上のエンターテイメントとしてのサッカー体験を経ていたため、

以前ほど学生たちの頂点を決める冬の風物詩に

興味を持てなくなっていた。

そんな折、夕方のニュースか何かで、

来たる高校選手権に桐光学園の司令塔として挑む

注目選手の特集をやっているのを

たまたま見かけた。

細身でひょろっとした体型のその選手は、

抜群のテクニックを有し、

フリーキックが大きな武器だと紹介されていた。

部活が終わってから録画したサッカーの試合を何試合も見る事や、

当時から長い前髪を目にかかるまで垂らし、

相手に視線が読まれないようにしているといったインタビュー映像を見て、

やはりサッカーのエリートともなると、

常人とは考えることが違うなと唸った記憶がある。

ちなみに アンダー世代の代表にも選ばれていて、

卒業後は横浜マリノス入りも決まっているとのことだった。

放送後、新聞でもその選手を紹介する記事を見かけた。

何でも高校時代に急激に身長が伸びたそうで、

以前は170cm足らずだったが、

今では高校生男子としては長身の部類に入る

178cmまで伸びたとのこと。

おかげで以前に比べ 当たり負けする場面も少なくなり、

持ち前のテクニックを存分に活かせるようになったということだった。

テレビの特集や新聞の記事を続けて目にすることで、

何となくその若者の事が気になった。

そんなに凄い選手がいるなら、

久しく見ていなかった高校選手権も見てみようかと、

市立船橋との間で行われる決勝の試合を、

VHSのビデオテープに3倍で録画予約しておくことにした。

それが、中村俊輔の実際のプレー映像を見る

初めての機会となった。


試合が始まると、

注目して見ているからか、

どうしても俊輔のプレーを目で追ってしまう。

そうでなくても、大会一のスター選手だけあって、

実況のアナウンサーもやたらと彼の名前を連呼する。

( 時にそれが興覚めだったりするのだが・・・)

後で知ったのだが、この日の俊輔は

体調不良の影響もあり、

本調子には程遠い出来だったそうだ。

それでも私の脳裏には、彼のプレーが

かなりのインパクトを持って記憶されることとなった。


まずボールタッチが柔らかい。

ただ柔らかいだけではなく、

一つ一つのタッチが細かく繊細なのだ。

今までにもテクニシャンと言われる選手はたくさんいたが、

彼らのプレーとは何かが違って見えた。

例えるなら、ファミコンがスーパーファミコンに変わり

グラフィックの細部まで表現出来るようになった時のような。

又はビデオテープがDVDに変わり、

画質が格段に向上した時のような。

あるいは漫才ブームの後、その既成概念すらぶち壊す

ダウンタウンがお茶の間を席捲し始めた時のような。

( 若い世代にはかえって分かりづらいかもしれないが・・・ )

とにかく 新しい世代の予感を感じさせる何かが、

すでにその時の彼のプレーには宿っていた。

タッチは細かいが、細見がためか

実際より長く見える両手両足を駆使した

フェイントのモーションは大きく、

何より見栄えが良かった。

後に知る この世代もう一人の巨星、

小野伸二のプレーが、

エレガントではあるがシンプルで、

極限まで無駄なアクションを省いたミニマムなモーションで

淡々とプレーするのとは対照的に、

俊輔のプレーは良く言えばキレがあって見た目が派手、

悪く言えば仰々しく大袈裟なプレーという印象だった。

極端な事を言ってしまえば、

小野伸二のプレーはより玄人好み、

俊輔は素人でも分かりやすく、

漫画の必殺技のようなプレーが多いというのが

私個人のイメージだ。

( その辺が俊輔が ‶ ファンタジスタ ” と

呼ばれる所以だと認識している。

俊輔のプレーは、

フェイントにしてもキックにしても

モーションが大きく独特で、

名前でも付けたくなるような ‶ 技 ” が多いのだ。)

そして ゴールやや左の位置からの直接フリーキックの場面では、

高校生ながら鋭く曲がる弾道のショットを放った。

残念ながらボールはニアポストをかすめ

ゴールとはならなかったが、

高校生にしてすでにキッカーとしての雰囲気を持っていた。

試合は結局、後に柏や清水などで活躍する

北嶋秀朗擁する市立船橋に 1-2 のスコアで敗れ、

念願の選手権優勝は惜しくも逃すこととなった。

しかし、この一戦以来、私にとって中村俊輔というレフティーは、

今後期待する若手注目株として

鮮烈に記憶されることとなった。

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