ゲームを支配するマラドーナ
【2] 天才の一瞬の閃き
後半に入り ブラジルが勢いを増す。
次々にシュートを放つも、
キーパーの好守やゴールポストに嫌われるなど、
なかなか得点には至らない。
アルゼンチンは まさにサンドバッグ状態で、
1点入れられたら そのまま2点3点と
ずるずると引き離されていてもおかしくはなかった。
しかし そこは腐っても前回王者。
ジャブは入れられても
クリティカル・ヒットだけは受けないようにして、
必殺のカウンターを虎視眈々と狙う姿勢は崩さなかった。
前がかりになるブラジルに対し、
マラドーナ、カニージャ がカウンターを仕掛けて
チャンスを生み出す場面も徐々に出始め、
たまらず体ごと止めに入ったブラジルDFが
イエローカードをもらう場面もあった。
しかし それでもブラジル優勢は動かず、
交代選手を入れて更に攻撃のテコ入れをしようとしていた、
後半35分過ぎの事だった。
しばらくボールに関与することなく
体力を温存していた マラドーナ だったが、
ハーフライン手前 センターサークル内でボールを受けると、
巧みな切り返しでMFアレモンををかわし、
後ろからカバーに来た MFドゥンガ を後ろ手でブロックしてそのまま加速。
3人目の DFリカルド・ローシャ を抜きにかかったところで
体を抑えられながらも、
最後は逆サイドのDFの裏にクロスするように走り込んだ カニージャ に
‶ 右足 ” でのスルーパス。
グランダーのボールはブラジルの DFマウロ・ガウボン の股の下を通り抜け、
マラドーナ の突破にDF4人が引き付けられていたため
フリーになっていた カニージャ の足元へ。
前方の唯一の敵 GKタファレル を難なく左に抜き去り
左足でゴールを決めた カニージャ は、
嬉しそうな表情を爆発させながら
チームメイトの下に走り寄った。
マラドーナ が中盤付近でボールを持ってから
わずか十数秒の出来事である。
それはまさに 電光石火のゴールだった。
圧巻だったのは その後の マラドーナ のプレーだ。
焦るブラジルに対して 貫禄のプレーを見せる。
アルゼンチン MFバスアルド が抜け出し
GKと1対1になりかけた場面で、
退場覚悟のバックチャージを繰り出した
ブラジルDFの要 リカルド・ゴメス が退場となる。
数的有利になると見るや、
マラドーナ はあえてドリブルを仕掛けてファールをもらったり、
敵を背負ってのボールキープを繰り返し、
ブラジルに攻める時間を与えない。
かと思うと 試合終了間際、
敵陣内のペナルティエリア手前付近でボールを受けた マラドーナ は、
鋭い切り返しから膝下だけの小さなモーションで
絶妙な浮き球のパスを MFカルデロン に通し、
あわやPKかという場面を作り出す。
どこで時間を使い、
どこで勝負をかけるべきか。
何なら あの神業のようなアシストも、
あの時間帯、あの場面でしか出せないと
初めから分かっていたようにすら思えてくる。
90分間でどのようにプレーすれば
自分のチームを勝利に結びつけられるのか・・・
全てを知り尽くしているかのようだった。
幼少期 マラドーナ のいたチームは
100戦無敗を誇ったと言う。
それは彼の圧倒的な能力だけではなく、
勝ち方をそのものを知っていたからなのではないだろうか。
近代以降のサッカー史において、
ここまでチーム全体に影響をもたらす選手は、
マラドーナ 以外では
後のフランスの司令塔 ジダン くらいしか思い浮かばない。
よく マラドーナ や ジダン を称して、
‶ 1人でチームを勝利に導ける選手 ” と言われるが、
彼がまさにその類稀な才能を持ったスーパースターであると、
改めて世界に示した試合だった。
~ 続く ~
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