あの日のハリルジャパン Vol.3

ワールドカップ ハリルジャパン オーストラリア戦 サッカー
決戦を報じる当時の各メディア

残り20分の死闘

〈 待望の追加点 〉

後半25分、

オーストラリアの右サイドからのコーナーキック。

ボールはニアサイドで日本のディフェンスに弾かれ、

タッチラインを割る。

すぐさまオーストラリアのスローインでプレーオン。

日本は大きくクリアするが 前線 CF大迫 の足元に収まらず、

左サイドからの突破を許す。

オーストラリアの右サイド FWクルーズ が 左SB長友 の裏に抜け出て

グラウンダーのクロス。

中で FWユリッチ が詰めるも

すんでのところで SB酒井 のブロック。

ゴール正面、弾かれたボールが浮いたところを

FWケーヒル が狙うが、CB吉田 が懸命に体を入れて触れさせない。

吉田を抱え込む形になったこのプレイで、

ケーヒルがファールを取られて日本ボールとなる。

何とか失点は免れたが、

早速 日本にとっての難敵ケーヒルが存在感を示した場面だった。


後半30分、日本ベンチが最初のカードを切る。

左WGの 乾 に代えて、

今予選チーム最多得点の FW原口 を投入。

原口は このチームを牽引してきた

ハリルジャパンの攻撃のキーマンの一人だ。

交代した乾も、ここまで攻守によく走って

チームに貢献していた。

特に献身的な守備はスペインで培われたもので、

自分の持ち味のドリブルでの仕掛けを自重してでも

チーム優先で守備をこなす姿は、

感動的ですらあった。


後半32分、

CF大迫 のポストプレーから

左サイドを WG原口 が抜け出してグラウンダーのクロス。

ペナルティエリア内で受けた MF井手口 のシュートが枠を捉えるも、

DFセインズバリー の捨て身のブロックで得点ならず。


後半36分、

自陣深い位置から MF井手口 が右サイドの WG浅野 へロングフィード。

WG浅野 はペナルティエリア手前で

相手ディフェンスにドリブル勝負を挑むも、

コントロールミス。

相手に当たってこぼれたボールを CF大迫 が拾い

シュートを放つが、大きく枠を外れる。


この試合、MF井手口 のフィードから

何度かこういったチャンスが生まれている。

若干21歳にして、この大舞台での堂々たる立ち居振る舞いは、

大いに将来性を感じさせるものだった。

また まだ代表キャップ3試合目だった井手口を、

この大一番でスタメン起用した ハリルホジッチの慧眼も、

もっと評価して良いところだと思う。

事実、後年 井手口は、

この時のオーストラリア監督 ポステコグルー に呼ばれる形で、

スコットランドの名門 セルティックFC に移籍を果たす。

残念な事に、今のところ納得のいく結果は残せていないが、

余程この時のパフォーマンスが印象深かったのだろう。

(*2023年2月~ アビスパ福岡にレンタル移籍中 )

そして、ついにその井手口が

試合を決定づける大仕事をやってのける。


この時間帯、1点を追うオーストラリアは

FWユリッチ、FWケーヒル を前線に張らせて、

重心を前に置いた布陣となっていた。

高さを活かしたパワープレーに舵を切っても良い場面だ。

今までのオーストラリアであれば、

日本の苦手とする 雑なロングボールを前線に放り込むというやり方を

してきただろうし、

日本もそれが一番嫌だったはずだ。

しかし、ポステコグルー率いるオーストラリア代表は

それを選択しなかった。

この時間帯でもあえて、キーパー含むディフェンスラインからの

ビルドアップを試みたのだ。

彼らも、今までのフィジカルでゴリ押しするスタイルでは

世界では通用しないという事を理解し、

戦い方に変化を求めていたのだろう。

そういった意味では、

日本と状況は似ているのかもしれない。

どちらも、アジア予選で終わりではなく、

本大会に向けてのチームの在り方を模索しているのだ。

しかし、そうなれば、

終始 前線でのボール奪取からショートカウンターを狙っていた

日本の思うつぼだった。


後半37分、

センターサークルやや手前、

後ろからのビルドアップに対してプレスをかける日本の守備に慌てたのか、

MFアーバイン の後方へのパスが味方の足元から若干逸れる。

これに反応した WG原口 が体を張ってボールを奪い、

倒れ込みながら前方にボールを繋ぐと、

MF井手口 の足元へ。

勢いに乗ったままドリブルの態勢に入ったMF井手口は、

左サイドからカットインする形で中へ切れ込み、

ペナルティエリア手前約2メートルの位置から

思い切り良くシュートを放つ。

追いすがる MFアーバイン を交わし、

CBセインズバリー がカバーリングに入る前に放たれた弾道は、

懸命に反応した相手 GKライアン の右手を弾き

豪快にオーストラリアゴールに突き刺さった。( 2-0 )

これで点差は2点。

日本の勝利がほぼ決定した瞬間だった。

沸き立つスタンド。

巻き起こる大歓声。

スタジアムは文字通り 興奮の坩堝と化した。


ゴールと共に周りのサポーターたちが

一斉に立ち上がった。

飛び上がって喜ぶ周りの人たちと全く同じタイミングで、

私と隣の友人の体も いつの間にか宙に浮いていた。

原口の体を張ったプレーに一瞬、

「 ( オーストラリアの ) ファールじゃないか!!」と

語気を強めたが、

次の瞬間、井手口の右足から放たれた美しい弾道に

一瞬息を呑んだ。

ゴールが決まると、サポーター一人一人が

各々の喜び方で感情を爆発させる。

しばらくして、得点者のアナウンスが流れると、

殊勲の若者を褒め称えるチャントを皆で唱えた。

今まで国内、海外問わず、

色々なスタジアムでサッカーを生で観戦してきたが、

これだけ感情を揺さぶられたのは

後にも先にも この試合だけだった。

私の体の中で、何かが弾けていた。

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