

歴史が動いた瞬間(後半)②
【7】完璧なゴールとジャガーの咆哮
78分。
自陣でボールを奪った WB三苫が
自らのドリブルで左サイドを駆け上がる。
マークに付くのは途中から入った MFホフマン。
左コーナー付近手前まで敵陣に侵入した三苫は、
ゴール前の人数が薄かったことでボールを下げ、
遅攻に切り替える選択。
三苫の相手に対峙するドリブルは、
安易に飛び込めばかわされてしまうので、
ドイツのディフェンダーたちも不用意には距離を詰められない。
1対1の個の強さがある三苫がいることで、
チームに時間と余裕が生まれる。
何気ないが、個の力を活かした
三苫の頭脳的なプレーだった。
この時間になると、
両チームとも中盤にスペースが空いてきて、
オープンな展開に。
右のウィングバックに入った堂安も守備に回り
ドイツ攻撃陣につけ入る隙を与えない。
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83分、
自陣深くで MF遠藤が競り合いからファウルをもらう。
勝ち点3奪取のためにゴールが必要なドイツは、
全体の意識が前がかりになっており、
ディフェンスラインの背後に
大きなスペースが産まれていた。
間延びしたドイツ守備陣の左サイドの裏のスペースに
FW浅野が走り込む。
そこに CB板倉が、
リスタートから絶妙な浮き球でのロングパス。
後ろから来た難しいボールを
浅野は右足で完璧にコントロールし、
自身の前方のスペースへと持ち出す。
対応の遅れた CBシュローターベックとボールとの間に体を入れ、
左手で相手の体を抑えながら
ゴールエリア付近まで侵入。
しかし、最後に立ちはだかるのは
鉄壁の守護神 GKノイアー。
しかし、この日の浅野はたじろがない。
追いすがるディフェンダーを引きずりながら
ほとんど角度のない位置から放たれたボールは、
名手ノイアーの肩口をかすめ、
ゴールネットに吸い込まれていった。
日本 まさかの逆転劇!(2-1)
スタジアム全体が
まるで生き物のように唸り声を上げる。
ゴールの瞬間、
日本ベンチから控えの選手たちが飛び出し、
殊勲の浅野を祝福する。
ベテランの長友は、
もっと盛り上がれとばかりに
客席を鼓舞する。
チームが一丸となって生まれた
貴重な追加点だ。
・・・・・・・・・・・・・・・・
それにしても見事なゴールだ。
前がかりになったドイツのディフェンスラインの隙を突いた
板倉も素晴らしかったが、
後方からくるボールを、
スピードを殺さずに自分の前方のスペースにトラップし、
ディフェンダーからのプレッシャーを受けながらも
ゴールにねじ込んだ浅野のプレーは
まさに神がかっていた。
しかも、世界屈指の実力者
ノイアーを破ってのゴール。
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浅野お得意のパフォーマンス、
ジャガーポーズも飛び出し、
試合は完全に日本のペースだ。
【8】巨星堕つ
焦るドイツは
89分、最後の交代のカードを切る。
(MFニャブリ→FWムココ)
体格で勝るドイツは、ここから終了までの時間、
ロングボールに活路を見出そうとする。
既に交代で入っていた長身のフォワード、
FWフェルクルク目掛けて
ゴール前に再三クロスを上げるが、
CB吉田を中心に簡単にはボールに触れさせない。
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アディショナル・タイムの表示は7分。
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CBリュディガーも中盤まで上がって
ロングシュートを狙うが、
苦し紛れで放ったシュートは枠を外れてしまう。
95分、
前線のターゲットとなった FWフィルクルクの落としを
ゴレツカが狙うも、これも左に逸れた。
後半終了間際、ドイツ最後の攻撃。
日本陣内の右サイドでフリーキックのチャンス。
直接狙うには遠い距離。
CBリュディガーに加え、
GKノイアーまでが日本のゴール前にポジションを取る。
日本は両サイドのウィングも下がって
ゴール前を固める。
まさに総力戦の様相だ。
ゴール前の競り合いからファーに流れたボールを
素早く反応した SBズーレが狙うも、
遠藤が魂のブロックでコーナーへ逃れる。
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続いてドイツの左コーナー。
MFキミッヒが上げた高い弾道のボールを
GK権田がパンチングでクリア。
ドイツディフェンスがボールを拾うが、
FW浅野が猛然とプレッシャーをかける。
ドイツが右サイドに展開し
再びクロスを上げようとするところを
FW南野が引っ掛けてタッチラインを割る。
時計を見るレフェリー。
一瞬の間の後、
試合終了のホイッスルが吹かれた。
安堵する選手たち。
客席には感極まったサポーターの表情もあった。
控えの選手たちやスタッフも
喜びを爆発させる。
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遂に日本がカタール・ワールドカップの初戦でドイツを破り、
勝ち点3を手にした、
紛れもない歴史的な瞬間だ。
【8】夢の続き
試合のFIFA公式MVPは、ゴールキーパーの権田。
しかし、この試合一番の殊勲者は言うまでもなく、
的確な采配で試合の流れを変え 歴史的勝利を手繰り寄せた
森保一監督だろう。
大会前、消極的な選手起用と、
具体的な戦術が見えないなどの理由で、
常に批判を受け続けていた森保監督だったが、
この大一番では一転、
積極的な選手交代と
柔軟なシステム変更を行い、
見事にチームを活性化させた。
ただ これには、
選手交代に関する今大会からのルール変更も
日本に有利に働いたと言えるだろう。
コロナ禍の影響で 交代枠が大幅に増加した影響で、
(前回大会:90分での交代3人、延長の場合更に1人。
→今大会:90分間で最大5人。延長の場合更に1人)
序盤からフルスロットルで相手に
プレッシャーをかけられるようになった。
今までは 序盤は良い試合をしていても、
後半スタミナが切れて失点し、
そのままズルズルと追加点を奪われ負けるパターンが多かったように思う。
現行のルールでは、
ゴールキーパーを除くフィールドプレーヤーの半分を
交代できる。
これは強烈な個の力こそないが、
運動量や規律正しいチームプレイを得意とする日本や、
今まで弱小国と言われていた国々にとっては
大きなアドバンテージになっているのではないだろうか。
(もちろん、最低限の技術や経験が無ければ、
同じ土俵にも立てなかったりもするのだが・・・。)
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何にしてもこの試合が、
日本サッカーのワールドカップでの歴史においての
分水嶺になるであろうことは
疑いようがないだろう。
サッカー後進国と揶揄され、
アジア予選さえ通過できなかった時代を知るものとすれば、
ワールドカップの本戦で
強豪国の中でも本丸とも言える
ドイツを破るというのは
まさに夢のような出来事だ。
(2026年現在、
1993年の 『ドーハの悲劇』の記憶を覆したとして、
『ドーハの歓喜』という呼び方も定着しつつある。)
この夢がいつまでも続いてほしいと、
私だけではなく、
当時の日本中のサポーターが
願ったことだろう。
その夢は永遠ではなかったが、
まだしばらくの間 続くこととなった。
一瞬の痛みと、
万華鏡のように目まぐるしく、
華やかな装いを伴って。
~ 続く ~

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