
今回の結果と課題
【9】失点のシーン
90分の激闘を終え、
うなだれる日本のイレブン。
歓喜に湧くブラジルサポーター。
ピッチの中央で抱き合って喜ぶブラジルの選手たち。
ブラジルにとっても、
プレッシャーのかかる試合だったことが伺える。
南米予選を5位という低調な出来で通過。
‶歴代最弱のセレソン″と揶揄されることもあった。
成長著しいとは言え、格下の日本相手に
トーナメント初戦で 万が一にも負けることなどあろうものなら、
鬱憤の溜まったブラジル国内で
暴動すら起きかねない。
アンチェロッティ監督にしても、
ふがいない成績では解任はおろか、
命すら危ぶまれる。
冗談ではなく、
南米の、特にブラジルにおいてのワールドカップとは
そういった存在なのだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・
最後の失点の直接的なきっかけとなり
うなだれる田中碧を慰めるチームメイトの姿が
国際映像でしきりに流される。
そんな中、試合前の場外での舌戦の原因となった
日本の若きフォワード 塩貝の下に、
この日も前線でプレーし、日本の脅威となっていた
マテウス・クーニャが詰め寄る映像が話題になった。
件の「昔は強かった」発言に対しての
彼なりの反応だったようだが、
その彼が数秒前まで親身になって慰めていたのが
ミスをした田中碧だったというのが
面白いところだ。
敵だろうが見方だろうが、
自分が良いと思ったものには賛辞を送り、
悪いものには罵倒することすら厭わない。
そんなブラジル人の情熱的で、ある種ピュアな国民性が
垣間見えたような気がした。
もう一度 失点のシーンを振り返ってみよう。
前半にも増して防戦一方だった日本。
同点には追い付かれたものの、
スコアの上ではまだ1-1。
ここ数分を乗り切れば延長戦に突入し、
休憩の合間にまた少し立て直せるという考えも
日本ベンチには少なからずあったと推察する。
逆転されるまで交代のカードを1枚残していたことからも、
延長戦、PK戦を見越していたであろうことが伺える。
アディショナルタイム4分を過ぎたあたりで、
ブラジルはディフェンスラインでボールを回しながら、
右サイドに展開。
この試合何度か見せていた、
SBダニーロとWGハイアンのコンビネーション・プレーによって
左サイドを崩されかけた日本だが、
このボールが中央に流れたところを
CMF田中碧がいち早く察知し、
ボールを受けた CFエンドリッキにプレッシャーをかけることで
ボールを奪取する。
田中碧の危機察知能力が活きた場面だ。
しかし、この後ボールを保持しようとしたため、
ブラジル右WGハイアンにプレッシャーをかけられて、
中途半端なバックパスを奪われてしまう。
先のダニーロの突破の勢いで、
日本は中盤の選手までもがディフェンスラインに吸収され、
ほぼすべての選手が
ペナルティーエリア内に一直線に並ぶ形になった。
ブラジルの攻守の切り替えの速さもあり、
日本はほとんどの選手がボールウォッチャーの状態に。
ハイアンから IHギマランイスにボールが渡った瞬間、
下がってきていた CMF佐野海舟がシュートブロックに飛び込むも、
周到なギマランイスは半身を開いてトラップし、
一度ボールを持ち出すことでこれを回避。
シュートを警戒していた佐野に対して、
このワンタッチがシュートフェイントのように機能し、
目の前にはオフサイドラインぎりぎりの位置で一瞬フリーになった
マルティネッリの姿が。
本来マルティネッリをマークするはずの CB富安は、
佐野が倒されたことでギマランイスのシュートを警戒。
シュートコースに入ることを優先する。
この時、ウィングバックの菅原が絞っていれば良かったのだが、
大外には WGヴィニシウスも控えているため、
そちらにも気を取られて、
結果マルティネッリをフリーにしてしまった。
そうは言っても、そのチャンスボールを正確にトラップし冷静に流し込む
マルティネッリの一連の動きは見事だったし、
決められはしたが、至近距離からの一撃に左腕で反応し
最後まで喰らいついた GK鈴木ザイオンの人間離れした反射神経も、
賞賛に値するものだった。
【10】埋まらなかった大国との差、日本の課題について
惜しくもトーナメント初戦で敗退した
今大会の日本代表。
前年の親善試合で勝利を納めたことで
サポーターだけでなく、選手たちやスタッフの中にも、
〈もしかすればあのブラジルを倒せるかも・・・〉という期待が
少なからずあったと思う。
実際前半1点リードで折り返した際には、
筆者自身、半分勝利を手にしたような気分でいた。
しかし、現実はやはり甘くはなかった。
スタッツを見れば両者の地力の差は一目瞭然で、
まだまだ世界トップレベルとは差があるなという印象。
前回大会の成功体験が、
その認識を 若干曇らせていたようにも思えてくる。
3バック、(実質は5バック)の限界も顕わになった。
3バックはあくまで弱者が強豪国に一泡吹かせるための戦術であり、
一昔前ならいざ知らず、
現代のサッカーシーンに於いては、
クラブチームを含めて採用されにくい、
いわば時代遅れな戦術となりつつある。
そして今回のように、その弱者の戦術も、
強豪国がきっちり対策をすれば
容易に攻略されてしまうことが明らかになった。
「アディショナルタイムまで粘ったのだから、紙一重だった。」
という声もあるかもしれないが、
トーナメント上位に勝ち残った国のほぼ全てが
4バックを採用していることを見ても、
それは顕著だ。
万が一大番狂わせは起こせても、
未来はない戦術と言えるかもしれない。
簡単な例を挙げておこう。
2004年、名将オットー・レーハーゲル監督の元、
EURO優勝を成し遂げた 当時のギリシャ代表。
4-5-1という超守備的なフォーメーションと、
徹底したマンマークという前時代的な戦術で
並みいる強豪を打ち倒し、
遂にヨーロッパの頂点に立った。
誰もが予想しなかった勝利。
世代的に優秀な選手が多かったことに加えて、
チーム一丸となって戦うチームスタイルと、時代遅れなマンマークが、
逆に他の強豪国の選手たちを戸惑わせる結果となり、
更にセットプレーの強さを活かして
あれよあれよという間に勝ち進んでいったイメージだ。
このシチュエーション、どこかの国に似ていないだろうか?
そう、今現在の強豪国を相手にした時の
日本代表の戦い方とそっくりなのだ。
もちろん、国を挙げてユース年代から育成を重ね、
ヨーロッパはじめ、アジア諸国にも選手を輸出する側になった、
サッカー輸出国の日本と
当時のギリシャを単純に比較はできない。
ただ、その後のギリシャ代表が、
世代交代を機に表舞台から姿を消していったことを鑑みると、
ジャイアントキリング狙いの戦術でワールドカップに挑むのは、
限界があると言わざるを得ない。
そのためには、やはり
1対1のデゥエルで負けないセンターバックやサイドバック。
試合の流れを読みながら
ここぞというところで点を取りに行ける気の利いたボランチ。
単独で勝負を仕掛けられるウィング。
劣勢でも前線で起点になれて、
独力でゴールをも奪えるセンターフォワードを生み出すことが
求められる。
やはりどうしても求められるのは
個の力ということになってくる。
少なくとも4バックの採用は、
代表レベルのみならず、
Jリーグや育成年代を通じて、
もっと統一的に取り組んでいく必要があるように思える。
【11】総括
またしてもトーナメントで勝ち上がれなかった日本代表。
今大会は参加チームが増え、
大会の形式が変わったこともあるが、
最終的にはベスト32と、
形の上では前回大会を下回る結果となった。
もちろんくじ運の悪さや、
大会前の主力選手の怪我の影響もあるが、
ここは一旦謙虚になって、
今一度、日本に足りなかったものを検証することも
必要だと思う。
正直に言えば、前回大会での好成績で、
筆者自身も含め、日本サッカー界全体に
ある種のバイアスがかかっていたように感じる。
大会後、ドイツ、スペインに勝ったことは
大々的に取り上げられたが
クロアチアにPK戦で負けたことに対する検証を、
もっともっとするべきだったのではないか。
いや、むしろ全く足りなかったように感じる。
カーボベルデの躍進や、
ノルウェーの台頭など、
新興国が奮闘する姿が目立った今回のワールドカップ。
そんな中、もはや勝ち進んでも さほど騒がれない存在になったのが、
モロッコだ。
モロッコと言えば、少なくとも一昔前までは
日本と同等か 少し上ぐらいのグループにいたイメージだった。
しかし、前回大会でベスト4と躍進して以降、
すっかり強豪国の仲間入りを果たした感がある。
日本もいつしかトーナメント初戦敗退の殻を破り、
ベスト8やベスト4の舞台で並みいる強豪と対戦する日が来るのを
待ち望んでいる。
最終スタッツ
日本
1
5
2
2
5
36%
336
スコア
シュート
枠内シュート
CK
FK
ポゼッション率
パス成功数
ブラジル
2
20
7
6
13
64%
718
~ 続く ~
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